蓮如―信仰で時代を動かした男 (PHP文庫) | |
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二宮 隆雄 |
かつて、日本で宗教による自治国家が誕生したことがあった。
それも、数年で消えた国ではない。戦国時代において約100年も続いた一大勢力「加賀一向一揆」国は、織田信長によって制圧されるまで、信徒による自治が実現していたのだ。
そして、その信徒たちによる信仰は受け継がれ、今なお日本人の10人に1人が信者とも言われている。
その名を浄土真宗。その隆盛の祖と言われるカリスマ、蓮如の生涯を描いた歴史小説が本作品だ。
当時(変に)敷居が高かった宗教への理解、信仰への道を平坦にしたその功績は、救い無き時代に生きた人々が次々に信者となっていったことからも覗える。70代の晩年まで何度も布教の地を変えながら、ひたむきに布教をするそのバイタリティの高さと、教えをただ愚直に伝えようとする真摯さは、まるで生きた仏か、と思わせるほどだ。
だが、その一方で宗教で腹はふくれない、と反発する存在や、蓮如を思うあまりに暴走していく弟子たちなどの動きによって、蓮如はいつしか権力闘争に巻き込まれていく。理想だけでは救われないカウンターパートの存在が、社会という魔物と向き合っていく難しさを感じさせる。後に蓮如が育てたこの信仰が、織田信長との10年にわたる闘争を産むことになろうとは、本人は思いもしなかったに違いない・・・