モーション・グリーン

読破本・特撮(仮面ライダー)・アニメを取り上げるブログです。

【2015年読破本207】決戦!大坂城

前作と比べると、少し物足りないか・・・

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 一線で活躍する歴史小説家による「特定のテーマ」の元に執筆された短編集第二弾。

 今回は戦国時代の終わりを告げた『大坂の陣』。執筆者の一人でこのシリーズ考案者の伊東潤さんは、前作よりもレベルが高まっている、との発言をされていた ※ が、読んだ感想としては、そうかな、という印象。

歴史作家伊東潤のブログ【仍如件(よってくだんのごとし)2】 決戦シリーズ第二弾『決戦!大坂城』登場!

 思うに、(関ヶ原の合戦のように)その合戦の場所以外でも起きている事件や出来事が各地で繰り広げられているようなテーマ、であれば、題材や切り口が豊富にあるため、様々な存在が浮かび上がり、アンソロジー(短編集)としての奥深さが出てくるように感じる。それに対し、大坂の陣のように、取り上げる場所や人物がどうしても限定されてくると、必然的に被るところが増えてくる。そうすると文章力(著者)の勝負になってしまい、一冊の本としての奥深さが出てこない気がするのだ(もちろん、テーマはあるにしろ広げ方はあるはずなので、そこを工夫するのもプロの腕ではあるのだろうけど・・・)

 とはいえ、この取り組み自体は非常に画期的で魅力的だ。今後第三弾『決戦!本能寺』刊行が決定しているとのこと。今後も続けてほしいシリーズの一つだ(特に発起人の伊東潤さんは王になろうとした男を初め、長編や短編で本能寺の変に関する作品を数多く執筆された方だけに期待大 笑)

鳳凰記(葉室麟

 淀殿のお話し。 朝廷(帝)への圧力を強める徳川に対し、恩義ある豊臣は朝廷(帝)を守るためその存在を賭けて戦いを仕掛ける。気位の高さや時代の流れを理解できなかった、と評価の低い淀殿に、新たな視点でスポットをあてた一作。

 葉室さんらしい、美学あふれる展開で、これまでのイメージとは違う、胸を張って徳川と対する淀殿がすがすがしく感じる(家康と闘うためにわざわざ戦のきっかけを作った、という展開には正直驚いた)しかしながら導入・大戦前の文量が多すぎる。そのため大戦が始まってからの描写が少なく、気がつけば追い込まれていた、という展開になってしまっている。 負けても意義はある、という淀殿の心情は折り込まれているけれど、現実の行動にも焦点をあてないと単なる“負けたことへの後付け”要素が多く見られてしまうのが残念。

 ※改めて三英雄と朝廷(帝)との関係を調べてみると、

○信長・・・当初良好、その後悪化?

○秀吉・・・終始良好(まあ、関白になるしか秀吉に選択肢は無かったから、良好にするしかないのだが)

○家康・・・良くは無かった(事実色々トラブルは起こった) となる模様。

◆日ノ本一の兵(木下昌輝)

 真田信繁の話し。といっても信繁とは別に、幸村が登場するというかなりクラクラする構成だ。

 この短編は、父に愛されなかった信繁が、その傷心を「日ノ本一の兵」と認可されることで、父に、世に見せつけようとする、復讐の物語(しかも信繁がからくり作りが趣味、というなんだかキテレツみたいな設定)これまでの信繁(幸村)のイメージを覆す、小説ならではの斬新な展開だ。

 しかも信繁は『西尾宗次』となり、自分が仕立て上げた幸村に穂先を向けることに・・・ どす黒い感情が渦巻く世界観。まさに短編にぴったりの後味の悪さ(爆)

◆十万両を食う(富樫倫太郎)

 商人伊三郎、読み間違えて損をする(涙)

 関ヶ原の戦い同様、大坂の陣が長期間にわたると読んでいた人間は多かったのだろうか。大もうけをしようとして大損をした伊三郎は、穴埋めをしようと苦心している中で思わぬ勧誘を受け、歴史の闇に首を突っ込むことに・・・

 未だに残る大阪城からの抜け穴伝説を題材にしたお話しなのだが、しれっと大阪城の主要メンバーが数名抜け出ている(爆)まあ、明石全澄みたいに最後まで見つからなかった武将もいるから不思議では無いが・・・

 しかしそれすら本作品では大きく話題にのぼらない。伊三郎にとって、報奨よりも、見出した思いの方が重要だったから。

 心なき売り上げよりも、心ある仕事を 伊三郎がこの後どうなったのか、少し興味が残るラストだ。

◆五霊戦鬼(乾緑郎

 1582年から始まり、大坂の陣、そしてその後も続く恨みの物語。登場人物が多く、時期が何度も動くのでついて行きづらく、取っ散らかった作品。中盤あたりになって、水野勝成の業の話し、と気づく。

 水野勝成と言えば数多の大名を渡り歩いた歴戦の武将。生死のかかった戦いをしていれば、混迷の時代、そりゃ不明なことだってあるさ、と思うのは自分だけか・・・そう考えると勝成を祟るのは少々お門違いな気もする。

 それにしても、六角義定とはずいぶんマニアックな人物が出てきたもんだ、と感嘆。六角氏と言えば信長の京都進出を阻んで滅亡。しかしその後反信長を掲げた大名の元に身を寄せ、戦い、敗れると逃れ、また身を寄せ・・・を繰り返し、なんと1582年には武田にいたと言われている(しかも武田家滅亡後もその身は逃れ、1620年まで存命だったとか)

◆忠直の檻(天野純希)

 読み終わってここ数年の時代小説っぽい書き方だな、と思ったら、天野さんでした(笑)

 この短編集の中で最も読みやすく、最も入り込みやすい作品。 松平忠直と言えば徳川譜代家の中で最も大阪方に近く、最も冷遇されていた、結城秀康(家康次男)の嫡男。結果だけ見れば、正に悲劇の家の当主だ。

 父・秀康の生涯からつながる、呪いのようなつながりを、若き忠直が背負わざるを得ないところに、この青年大名の悲劇はある。 夏の陣最終決戦で、家康から叱責されたことで、死を覚悟したやみくも突撃は、歴史好きには知られたところだが、彼の純粋な性格が起こした僥倖と悲しみが、重すぎず、寄り添うような目線で描写されており、タイトル通り『檻』から外れたことで、彼にとっての幸せなラストへつながっていく。

 そして、お蘭との関係にもきっちり区切りをつけている(そしてこの区切りがニヤリとさせる形)

◆黄金児(沖方丁

 沖方さんが描く豊臣秀頼。なるほど、こう来たか。

 秀頼は評価が二分された武将だ。聡明だったという人もいれば愚鈍だったという人もいる。敗者として歪められた部分はあるにしろ秀吉の子ではなかったのでは、という話すらあるくらいだから、読み取りにくい男ではあったのだろう。

 沖方さんは秀頼を聡明(それもかなりの天才児)とした。だから家康は何が何でも秀頼を、豊臣家を滅ぼそうとした。 但し、それが故に秀頼は目的を豊臣家や自分の生存に置かなかった。大きな歴史の中に自分を見出し、その流れに自分の存在を刻むことにその命を注いだ。達観と言えばこれほど達観した人間もいないのではないか。

 と、こう書くと、コイツ何者と自分でも思ってしまう(爆)だが、読み進めると、秀頼の人物像が未だに不明確なのもわかる気がする。それだけ彼は色々見えてしまうし、それだけこの世に、その城に身をおけない男だったのだろう。 ある意味、そんな男を主とした大坂方こそ、最大の被害者になってしまう気がする(汗)

◆男が立たぬ

 大トリは伊東潤さん。読んであっ、と言わせる、圧倒的な奥深さ、着眼点の見事さ、さすがは短編に定評のあるお方、素晴らしい作品だ。

 大坂の陣の悲劇の主人公としてよく取り上げられる坂崎直盛。夏の陣にて千姫救出という大功をたてるが、約束していた千姫を妻には迎えられず、謀反をおこす武将。千姫のその後の不運と重なって、使い捨てにされた男扱いをされている作品もある。 だが、本作品では、そんな直盛にある大きな要素で光を当てる。タイトルの通り「男が立たぬ」だ。

 約束 

 誇り 

 絆

 戦国時代の終わりを告げた大坂の陣。それは徳川による時代統治の始まりであり、秩序を優先する時代が到来する、ということ。

 事実、幕府は直盛が託された“あるもの”を差し出すよう、直盛に迫る。しかし、権力よりも命よりも大事なもののため、彼は、その命を拒む。

 自分に託された使命と、その使命に携わり信じるものに、命を賭けて、自分の命を、その重みを委ねたとき、直盛父子は幕府すら入り込めない結末を、“時代”に突きつける。

 一つの時代の終わり。それを直盛ら「男が立てて」散っていった者たちで表現する。この短編集を締めくくるにふさわしい一作。

※「武士たちの時代が終わったことを~」と本文にはあるが、これはさすがに言い過ぎ(もしくは戦国時代の武士とその後の武士とを変に区別する表現)

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