モーション・グリーン

2018年、目標は読書300冊読破!のはずが、ここにきて400冊に変更?!進捗は当ブログで随時更新中。他には特撮(仮面ライダー)・ドラマ・アニメの感想などなど。

【家族の幸せよりも武士の幸せを優先した夫婦の物語】読書感想:修羅の都 

修羅の都

 

作家・伊東潤はちょくちょくこの言葉を使う。

 

『リーダビリティ』

 

わかるようなわからないような言葉だが、要するに読みやすさ、読み応え、読了感のよさ、ということらしい。

実際、御本人は単行本の文庫化に際して、校正を行い、より『リーダビリティ』を高め、読みやすくなりましたよ、とコメントされることが多い。

細かいところは読み込まない限り読者にはわからないのだが(苦笑)、読んでいてストレスが少なかったり、物語に入り込めたりしていくのは、『リーダビリティ』が高い、ということなのだろう。

 

そして御本人が『リーダビリティ』を高め、大きな手応えを公言したのが、本作だ。

常々、最新作が最高傑作、とおっしゃってはいるが、ここまで公言されているのは、よほどの自信作なのだろう。

これは読まねばなるまい。

 

修羅の都

 

すごい

 

御本人の手応えを、別の意味で大きく感じた。

むしろ『リーダビリティ』なんて横文字の基軸で(笑)判断しちゃいけない。

 

歴史小説として、伊東潤作品としても、これまでの作品と一線を画す、ものすごい一作だった。

特に伊東潤作品を読んできた方には、相当な衝撃があったのではなかろうか。

 

大きなポイントは3つ。

 

1:回想の大幅カット

伊東潤作品では、これまで現在パートと回想パートを同時進行させていく手法が数多くとられてきた。

ところが今作では、描かれるのは壇ノ浦~頼朝の死までがメイン。

それ以前の話は(多少出てくるものの)ほとんど描かれることなく、“今”がどんどん進行していく。

頼朝や政子、そもそも平安末期から鎌倉時代にかけての時代背景を説明するのに、回想シーンって、一見有効に思えるのだが、それをスパンと採用しなかった。それがかえって読みやすさにつながっている。

 

2:続きが読みたくなる

どちらかというと、第3者目線(いわゆる天の目)がちょこちょこ入ってくる伊東潤作品。それが、予定通り物語が進んでいくような印象を受ける事があった。

 

今作は、登場人物がどんどん物語の中で動き回っていくのが、読んでいて感じ取れるのだ。

頼朝や政子の結末を知っているにも関わらず、どうなるのか、続きが読みたいような読みたくないような、そんな想いに駆られながらページをめくっていけたのは、自分でも驚きの感覚だった。

 

本作の編集に携わった、コルクの佐渡島さんが、「伊東さんの大胆な仮説に驚かされた」という趣旨の発言をされていたが、それが読むとよくわかる。

 

主人公・源頼朝は、本作スタートからしばらくは、絶頂にいた。

 

平家は滅び、言うことを聞かない弟・義経は謀略を駆使して追い込んでいけた。

奥州藤原氏は英傑・秀衡の死去により弱体化。朝廷は政治と駆け引きで力を削いでいく。

 

武士が理不尽な生き方を余儀なくされない世界が、すぐそこまで来ていた。

 

だが、上り詰めた先に待っていたのは、下り坂の入り口だった。

 

権力を手にしたらその先を求めてしまう、抑えられない欲望

手にした権力が奪われる恐怖

そして、避けられない、自身の変化。

 

この変化=老いという、かつてないテーマに、伊東潤は向き合った。

頼朝の老いを、病をこれでもか、これでもか、と描いていく。

 

次第に進行していく様を、自分が自分でいられなくなる恐怖を。

これでもか、これでもか、と。

 

頼朝は墜ちていく。

 

そしてそれが、鎌倉幕府の屋台骨を揺るがす。

幕府は頼朝のワンマンだったことが浮き彫りになり、権力争いは次第に過熱。朝廷は力を取り戻していく。

そして、幕府が安定していたからこそ見えてこなかった家族崩壊。

 

次第に頼朝は、判子を押す“もの”と化していき、様々な勢力があの手この手で判子をおさせるように鎌倉へ押し寄せる。

 

ここまで来ると悲しかったなあ。

 

頼朝は老いの果てに、死を迎える。

通説にある落馬の謎が、そこに至るエピソードからきれいにつながっていく驚きは、もう読まねば体感できない。

 

 

3:英傑:北条政子

そして本作の最大のキモは、北条政子。

この方の作品内でのバランスが、この物語を奥深く、現代に我々にもつながる根本を露わにさせた。

 

頼朝が老いていき、墜ちていくことに政子は心を痛めていく。

何度も頼朝の元へ駆けつけ、何度も諫め、何度も涙を流した。

 

もし、北条政子が通説の通り、嫉妬深く、行動力豊かで感情強く、頼朝を純粋に愛していた女性なら、苦しい状況に涙する存在でしかなかっただろう。

 

だが、皮肉にも、北条政子は悲劇の妻では終われなかった。

政子は、頼朝と並び立つほどのリーダーの才覚を持つ者だったのだ。

 

だから、状況が見えてしまった。

鎌倉幕府を守るための最善の方法も、頼朝を楽にする方法も・・・

 

この作品の中で、政子は頼朝や家族を心から案じ、心を痛める一方で、状況を冷静に判断し、現実的な対処法を提示していける、恐るべき一面をみせていく。

それは個人として願っていた幸せよりも、肉親の安寧な人生よりも、理想の社会を優先させられる、強い精神力に他ならない。

 

だからこそ、相反する思考に突き動かされ、政子は後年の烈女につながる、とんでもない行動に出ていく。

それが頼朝の死に多いに関わっていくのだが、それは本作を読んで確かめて欲しい。

 

物語が動いていく。

登場人物が立ち上がり、物語の中で動き回っていく。

 

伊東潤は、もしかしたらそういうことは好きではないかもしれない。

でも、この作品は、間違いなく、物語が作者の手の中以上に、動いた作品だと想う。

 

 

修羅の都

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修羅の都

修羅の都

 

 

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