モーション・グリーン

ブログ開設13年目!今年も「紡ぐ」発信を目指す読書・アニメ・特撮感想ブログ。400冊読破を目指して今日も読んでます。

〈これから生まれるはずの、未知の日本のために〉読書感想:『麒麟児』

 

麒麟児

 

 

「おれも律儀だねえ」

働きがいの無い主君のために奔走するなんて

「おれも両面宿儺だね。」

相反する軸を持ち合わせながら、人間として成立させているなんて。 

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かたや武士階級など消え失せなければならないという怜悧な分析

かたや主家存続に尽力し、武士としての本分を全うしたい思い

 

幕末から明治へ。 時代が変わるその時に、奇跡を成し遂げた二人の“麒麟児”

日本人離れしたその手腕に隠された、本心とは。 

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江戸城無血開城から西南戦争終結まで、幕府と徳川家の命運を一手に担った勝海舟。

彼の(おそらく)生涯の中で最も長い数日間を軸にした歴史小説。

「天地明察」「光圀伝」のようなサプライズ展開こそないものの、海舟の苦闘と本心を沖方さんがじわじわと紐解いていく重厚さが魅力の1冊だ。

(ある意味、正統な歴史小説。沖方さんらしくはないかも)

 

江戸城無血開城と言えば、日本史に残る無血革命の象徴として有名だが、最新の研究では、西郷と海舟が話し合って決まった、というシンプルな展開ではなかったことが明らかになっている。

 

幕府(徳川家)側は劣勢ではあるものの、挽回の可能性は残っていた。

薩長(新政府)側は実は、江戸城を攻めたくても攻められない裏事情があった。

 

目に見える状況だけでは見えてこない、複雑な全体像。

海舟は、これらを全て飲み込んだ上で、西郷との交渉に臨む。

 

それが、認めてもらえない、と知りつつも。

 

物語は、海舟が確信している日本の未来への道を切り開く辣腕ぶりと、海舟があれほど嫌悪した幕府(というか慶喜)のために奔走する滑稽さを徐々にあぶりだしていく。

西郷との交渉で奇跡の好条件をひねり出しても、幕府(徳川家)からはさらなる好条件を求められ、なぜか慶喜に叱責されるなど、海舟にとって報われない展開が続く。

 

それでも屈さない海舟の執念。

その原動力は、彼の根底に流れる勝家の反骨心DNAによるところ、と沖方さんはその理由を描いている。

(事実、彼の父も祖父も、破天荒の生涯だったが、筋の通ったところがあった)

 

海舟が浮き沈みの激しい生涯においても、どこか大きく、どこか激しく生きられたのも、そんな繋がりがあったからなのかも。

 

そして、本書の醍醐味は、海舟のすさまじい交渉術だ。

 

序盤から始まる西郷との交渉から、明治初期の徳川家静岡へ移転までの海舟の行動は、やってること(事実)だけ追いかけると、ただのペテン師にしか見えてこない(苦笑)

 

例えば、西郷から示された無血開城の条件に「武器弾薬を引き渡すように」があった。 海舟はこの条件を、なんと(やんわりと)拒否。

しかもその理由が「徳川家に武器弾薬がないと、徳川家の過激派を抑えることが出来ない」と言うのだ。

現代なら「ふざけるな」と一蹴されるところ。

 

また、帝を大義にして押し出す論調に対しては、朝廷が欲にまみれた公家の集まり、と一蹴。

認め合っていても交渉のためなら痛いところを突く。西郷の良心をえぐる海舟のすさまじさだ。

(この論調を文章にぶちこんだ沖方さんのすばらしさに脱帽)

 

しかも、薩長(新政府)が江戸城を攻められないことを確信していた海舟は、どんどん話を進めていき、無血開城条件のほとんどを反故にしてしまう。

 

交渉結果だけみたら、“徳川家の”無血開城。

海舟の辣腕は本書を読んでいくと唖然としてしまう。

 

ちなみに、海舟が先を見据えない勢いとノリのやり方、として幕末から明治までの行動を批判する意見は結構ある。

ただ、細かい抜けはともかく、この江戸城無血開城~徳川家存続までの、彼には日本人離れした戦略性があったことは、最近の研究からも明らかになってきている。

ゴールが明確であればあるほど、過程はめちゃくちゃでも筋は通る。

そんなお手本のような光景が、そこにはあったのだ。

 

“無血”開城は無事成功し、徳川家は有利な立場を保った。

徳川家復活のシナリオは、本当に数歩手前まで近づいていた。

 

だが、終わりの時はあっという間に訪れた。

シナリオの崩壊は、海舟の生涯の幕引きとなるはずだった。

しかし人材不足の徳川家の中で、海舟の価値が下がることは無く、彼の奔走は続く。

そして敵味方でありながら認め合った、西郷との別れは、永別となってクライマックスへと続いていく。

海舟の人生の幕引きについては、是非本書を読んで確かめて欲しい。

 

ちなみに、本書では隠れた主役として山岡鉄舟が全編にわたり登場する。

ここまで(本人主役作品以外で)鉄舟を取り上げた作品は珍しい。 海舟と西郷だけが主役ではない。

沖方さんの細部にわたるストーリーテラーぶりも、この作品の魅力の一つだ。

 

麒麟児 電子特別版 (角川書店単行本)

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