失いたくないものがある
取り戻したいものがある
再び訪れた決戦を前に、漢たちは、己のあるべき姿を知る
己の戦に全てを注ぐ童貫 己の全てを棟梁に捧ぐ楊令
数多の想いを経て 対峙の刻 再び
○よみがえる星
前回に引き続き、梁山泊VS禁軍の静かな攻防が舞台。前作以来の大規模な決戦の中で、前作の主力メンバーたちが、本来あるべき自分(自分らしさ)と向き合う展開が非常に印象深かったです。
梁山泊メンバーで言えば、ちょっとこれまで楊令の「すごさ」に押され気味だった第1世代メンバーがようやく甦りそうな雰囲気。が、今回内面が描写されたメンバーは全員(楊令・以外)みんな死にそうで怖いですヽ(‘0’)ツ
◇燕青ー音色ー
かつてない状況の開封府ー死地ーへ赴く決意をした燕青。若い・若そうと思っていたら、もう46歳なのね老いたことを悟るような描写や、侯真の成長に目を細めるような描写、それに張平に笛を教える描写など、どれを見ても死亡フラグ点灯のようで不気味・・・とはいえ、開封府での李富ら西蓮寺との暗闘は、かなりの複雑な戦いが予想されるだけに、何が起きるのか。。。
張平に笛を教えた影響か、李師師に近い場所にいるからか笛の描写が多かったですね。でもその音色が、音色に込めた想いは、心揺れるものがありました。悲しみを、生きている実感を奏でる音色。それは、恵まれない生き方をしてきた燕青が、この世に示せる己の指標なのかもしれません。
開封府で、親の敵の哀れな姿を侯真に見せる燕青も、また印象的でした。
「殺したければ殺せ、父の雄々しい死に方が汚れるわけではない」「しかし、俺が穢れます」
諸行無常の現実、宋内部での腐敗ぶりを示す無惨な図。侯真の暴走と迷走を食い止めたかのような燕青の行動、これもまた次世代メンバーへのはなむけのように思えて怖い・・・
◇張清ー後悔ー
単廷珪の死を悔やんでいた張清。元々情愛の占める部分が大きかった人間ではあっただけに、何か引っかかっていたのだろうな。
単廷珪殿、戦死。それだけは聞きたくない。
短い一文でしたが、なぜか泣きました。
余談ですが、この単廷珪の前振りから、張清VS岳飛(+童貫)の戦いにて、張清が打ち合わせを破って行動を起こして戦死、という流れが頭をよぎり、「死ぬな、まだ早い」と念じながら読んでました。
◇呼延灼ー復活の双鞭ー
出陣を前に、復活の予感
何が嬉しいって、これが今回一番嬉しかった(+親バカ)
楊令という大きな存在を得たことで、良い意味で戦略を任せていたように見えた第1世代メンバー。しかしそれが情けなくも見え、老化による引退説もささやかれたり(汗)とイマイチはっきりしませんでしたから・・・
前作からもう10年になるのでしょうか。公孫勝に限らず、自分がどうあろうか、どうあるべきか、という問いを自分に課さず、答えず今日まで来てしまったでしょうね。自分より何より、ドコを目指すかというより、生き残ることを最優先にしていたのですから。もちろんそれは、死者達への思いが強すぎるからなのだろうけど・・・
楊令の合流によって、彼らは解き放たれていったはずでした。途中、全てを任せる姿勢が老いを助長させているような描写がありましたが、結局、組織のしがらみや周囲との色あわせをしていったことで、変に収まっていた、ということなのでしょう。
自分自身を解き放つことで、本当のあったはずの自分を見つけていく。そこに彼らの再生があるのだな、と。解き放ったのは、童貫だけじゃない。そんな予感を呼延灼は感じさせてくれました。
今回の童貫や呼延灼を見ていると、本来あるべき自分について考えさせられました。
今の自分の鬱憤や異常、発揮されない力を、社会や周囲や環境のせいにしていないか、自分の能力の限界のせいにしていないか、と。
しかし、どれだけ悩んでもあるべき自分へと最後は戻ってくるのだ。ならば目を背けず、自分を解き放ってみよう。捜していたものは、案外身近にあるのかも知れない、と。
○その他
・楊令伝では珍しく、地方の風景や様子が描写されていましたね。梁山泊がまさに国の形を作り上げている様子が伺えます。また、梁山泊自体を囮とする戦略がありながらも、梁山泊内の領地を荒らさないような方策はないものか、と模索する姿は、前回呉用がうたった「梁山泊は国だ」発言を裏付けるかのようで興味深いですね。
・何の狙いか、第1世代メンバーから次世代メンバーへの受け継ぎシーンが多かった。今回の流れでいけば、まだみんな死にそうにないけど、どこかで第1世代がいっぺんに死にそう。挙げてみると、前回死んでも守備地域を守りきると言った馬麟に、死者への思いで戦った張清、己の姿に目覚めた呼延灼に、死後の赤騎兵指揮を定めた史進。うわー、来月号がすんごいこわいわーーー
・自分自身のために戦うことを決意した童貫。方蝋戦から子午山訪問を経て、大きく変貌したしたねえ。岳飛との会話においても気味が悪いほど楽しんでいる雰囲気が伝わってきて、なんだか空恐ろしい。
・己を振り返った超安。結局彼は自分を凡将と評し、考え続けることを己に課しました。彼もまた自分に還ってきた一人。
・花飛麟、張清、そして楊令&張平と戦い破れた岳飛。まだまだ幻王には及ばない様子ですが、その他の梁山泊メンバーとはほぼ互角、そう考えるとやはり今後手強くなりそう。
![]() | 楊令伝5巻セット |
