楊令、国を拡げ、国を語る。
なぜ、梁山泊は負けたのか、なぜ、それまでのやりかたでは駄目なのか。
呉用、南にて、形無きいくさに目覚める。
己を捨て、全てを賭けて、果たして童貫に勝てるのか。
方蝋の戦、完結編。
○北ー新
梁山泊軍、始動ー
思わぬ形で宋VS遼軍の戦いが
終結。その間隙を縫って、新
梁山泊軍が動き出します。
梁山泊とは、腐敗した政府に対する反政府組織であり、革命組織であるというのが基本認識。
では、
梁山泊の目的(ゴール)とは何だろうか。宋に代わって新たな国を創ることだろうか、それとも宋を立て直すことだろうか。ここらへんのビジョンについて、当時の
梁山泊首脳陣は「国を創る」ことを重視していました。それは
梁山泊付近の都市を開放し、商業を発展させて人を集め、「民」の拠り所となるという方針が明確に押し出されていました。
が、それは理想であるが故に現実に阻まれ続けます。現実には、ひとつひとつの戦いに勝利していくことで、宋を打倒するのだという、シンプルなプロセスが漠然と存在していたからです。0からスタートした
梁山泊は、領土意識よりも拠点防衛意識が大きかった、つまり戦いによる結果を示していかなければならないかったのです。国造りとはそこに暮らす人々の、いわば意識改革なくしては完成しないのだと。
楊令はその教訓を活かそうとします。すなわち「国の中に国を創り、国として守っていく」ことで、新たな国造りの戦い、国を守る戦いというより一歩進んだ意識を明確にしたということだと思います。
戦いによる打倒というラインを変えずに、何のために戦うのか、その先に何があるのか。
呼延灼、張清、
史進ら第一世代メンバーは、暗に考えざるを得なくなります。かつてない意識変革に対応しきれない
呼延灼が印象的ですが、他のメンバーも多かれ少なかれそうなのかもしれません。
ともあれ、新
梁山泊軍は依って立つ場所を定め、力を蓄えていきます。この巻における動きはそれほど大きくはありませんが、新旧メンバーの力比べや思い出話など要素はてんこ盛り。穆凌に関する
呼延灼や
史進の会話を観ると、見ていないようできちんとメンバーを把握している第一世代の大人っぷりに脱帽です(笑)
一方、リーダーを失い瓦解する燕国。夢が毀れゆくことを確信した耶律大石は西へと去り、残された蕭珪材は、誇りと意地の中で行く末を模索していきます。未だ若く、それでいて清廉な雰囲気を醸しだす彼に道を示す唐昇の姿も印象的(道を示しながら、実は己も迷いながら生きている唐昇の姿は、不完全だからこそ助け合い、支え合わなければいけない人の姿を垣間見せます)
落ち着いたかのように見えた、この燕国での行方ですが、野望絶えた男あり、さらなる野望を胸に秘める男あり、絶望した男あり、とまだまだ鎮火する勢いはありません。しかも五巻のラストでは、更なる動きが起きてきます・・・
○南ー
呉用、地図を燃やしてー
使徒を糧として童貫軍に迫る方蝋軍
終わりなき殺戮劇に、毀れそうな軍を支えながら方蝋正規軍を狙い続ける童貫。
長きにわたる方蝋の戦に、ついに決着がつきます。
本当は、禁軍を疲弊させ、
梁山泊が力を蓄える時間を稼ぐことが目的だった。それが、方蝋に逢い、惹かれ、いつしか全てを賭けていた、悲運の軍師・
呉用。
戦いの中で、
呉用は、戦いというモノの姿を目の当たりにする。それは、人が生き物である限り、人が起こす戦いもまた、生き物であるということ。勝つべくして戦うのではなく、戦って勝つ、そのために戦いの場に身を置くこと。
かつて、紙の上で戦いをしていた
呉用が、実際の戦いの中で(流動することを前提で)勝つための戦いを模索していく姿は、人は、例え犠牲や時間を費やしたとしても変われることを証明したとも言えます。後悔の日々の中でもう一度、もう一度立ち上がった
呉用の真骨頂を、是非感じてください。
繰り返しになりますが、方蝋の戦は終わります。ですが、方蝋の戦は、戦いとは何だという命題を残しました。
例え、その戦いに意味があったとしても、
志のために流される犠牲だとしても
同じ赤い色をした血を強いることに変わりはないではないか、
同じ人の命を伴う殺し合いであることに変わりはないではないか
方蝋の問いに燕青は答えきれませんでした。志の名の下に戦いを続ける
梁山泊と、宗教の名で犠牲を享受させた方蝋とは、戦いを促進させているという意味では同じと言えてしまう、方蝋の問いは本質を衝いてしまっているから。。。
なぜ戦うのか、なぜ戦いという道を選ぶのか。
戦いという手段を用いることで
梁山泊は存在を示し続けてきた。では、今のやり方は理想への道として間違ってはいないのか。戦いが終わった時、
梁山泊は何を持って皆をまとめていくのか、今後の
梁山泊のあり方を暗示しているような、そんな会話でした。
五巻までは方蝋伝であり
呉用伝である、と私が思うこの展開(爆)も、今回で一応一区切り。余談ですが六〇万人もの人間を殺し尽くした禁軍の戦いなど、スケールがすごすぎてまるで想像できません(泣)
いよいよ禁軍との決戦へと舞台を移す楊令伝。六巻では、力を蓄えていく中で起こった、王貴・王清の誘拐事件、そして扈三娘の脱走。
梁山泊が必死の捜査を進める中、楊令は黒騎兵の一部を蕭珪材に託し、
梁山泊への合流を果たす。そしてそこから
梁山泊は新たなカタチを形成しはじめる・・・
六巻の収録内容にあたる連載一六回~一八回の感想はコチラ↓
楊令伝 第一六回感想
楊令伝 第一七回感想
楊令伝 第一八回感想