伊東潤が挑んだ、西郷隆盛三部作の最終巻(あ、走狗読んでない・・・)。
運命のいたずらで西郷の首を取ってしまった文次郎と、大久保の命を絶った島田一郎。
奇しくも同じ加賀藩士ということ自体が、秋山兄弟と正岡子規が同郷(同時代人)以来の衝撃だった。
が
本作はそんな驚きすら追いやられるほど、二人の心理を丁寧に綴った傑作。
特に一郎が何度も理想と現実の狭間を行き来しながら、その命を熱意と執念で燃やし尽くしていく様は、どこか愛おしくなってしまう。
後の世を知る我々は、一郎の行動を愚かと思う。
事実、彼の行動は計画的と言うよりは壮士であり、それ以上ではなかった。
でも、加賀という大きなゆりかごの中で、生ききることを良しとしなかったその大志を嗤うことはできない。
きっと、それまでとは違い、大きな声を出せるようになってきた時代だったのだろう。
声出せるのに、そこに頭のねじが吹っ飛ぶほどのエネルギー、私たちはまだ持っているだろうか、とふと思ってしまった・・・
で、この作品に限らず、著者・伊東潤はどの作品においても大きな挑戦をしてくる。
今作は大久保が暗殺当日、いつもと違う道を通った謎にも迫ってきた!
これが本当に秀逸な展開につながっていく。お~っ!と声を上げてしまった。
この作品は、最大石高を持ちながら、幕末~明治で大きな動きが見られなかった加賀藩の歴史にも触れられる貴重な内容である。石川県民はもちろん、幕末の表舞台に出ることの無かった諸藩にめ目を向けるきっかけになるかもしれないなあ。
前二作の村田や川路が登場するなど、三部作としてのリンクも楽しめる一冊だ。
価値観が大きく変わった幕末から明治。
変革の夢を見ることが罪か、変わらぬ日々を願うのが罰か。
実は「西郷の首」は作品全体でほんのわずかしか出てこない。だが、「西郷の首」がトリガーとなり、一郎は凶行にはしる。その顛末を是非見届けて欲しい。