この物語は、暗い。
この物語は、救いがない。
この物語は、絶望が漂う。
でも、最後まで読めば、見えるはずだ。
蛍火のような、細くて微かな、希望の道が。
信じ続け、守り続けてきた、信念の道が。
だから、くじけず、最後まで読んで欲しい。
その瞬間に感じた、その震えを、きっと貴方は忘れない。
近年の歴史小説の中でも、特筆すべき救いのない作品だ(涙)
著者はこれがデビュー作のことだが、構成や表現が一昔前のタッチに感じられるため、最初は有名作家の変名かと思ってしまった(苦笑)
まず題材がシュールだ。
戦国時代初期の大友家に起きた御家騒動「二階崩れ」
戦国時代ファンでも知っている人は少ないのではないか?
知っている人でも、大友義鎮が父を殺害して当主になった、ということくらいであろう。
もし、大友義鎮が、後に大友家を九州随一の大大名に飛躍させなければ
キリシタン大名として、「大友宗麟」として後世に名を残さなければ
注目されなかった事例であろう。
しかも、
この作品の主人公は、“その”大友義鎮ではなく、重臣・吉弘家というのだから、ますますシュールであり、馴染みも薄くなる。
さらにさらに、
実質主人公の吉弘鑑理、義鎮側では無い。
彼は元々、義鎮の父・義鑑(つまり殺害される側)の忠臣であり、しかも当初は義鎮を廃嫡する側にまわっていたのだ。
彼はそのために無二の友を誅殺する役割さえ担っている。
当然のことながら義鎮が政権を担った後、吉弘家の状況は悪化していく。
この物語の中で、権力と仕える主君(御家)は二転三転していく。
その中で、上手く立ち回れない鑑理の不器用さとその誠実さが、度々吉弘家を取りつぶしに追い込んでいく。
イライラの募る(笑)展開が続くのだ。
ただでさえ有名武将がほとんど出ない、馴染みの薄い時代。
そこに、もどかしい展開がいつまでも続くのだから、もう(涙)となげきたくもなる。
途中、鑑理の弟・鑑広のおちょこちょいぶりと奥さんとの馴れ初めという、緩和剤(笑)が救いとなっていくものの、やはり悲劇はつきまとう。
まさに暗夜行路。
義なんて、
義なんて、
義なんて・・・・
吉弘家の、いや、読者の思いが、最後まで募り募っていくことだろう。
だが
どん底まで追い詰められた鑑理に、小さな道が開かれる。
細く、小さく、
でも、連綿とつながってきた、長く折れない道が。
冒頭でも触れたが
本書は結構読むのが辛い。
よくぞここまで、と思うほど、いやーな展開が続く。
でも、それでも、最後まで読んで欲しい。
鑑理がボロボロになっても、貫き続けた想いが、報われるその瞬間を見届けるために。
そして、吉弘家がその命をとして守り続けてきたその生き様が、
目に見えない力となって、家を守り続けてきたことを。
そしてそして、ちゃんと、それを見てきた人々がいたことを。
主君・大友家はこのあと、九州三強筆頭に数えられる大大名に成長するが、
やがて没落し、地上から姿を消す。
対して、吉弘家は、この後も主君のために戦い続け、多くの犠牲を出していくが、
その生き様はきちんと受け継がれていく。
特に鑑理の次男・鎮理は、
没落していく大友家の中で、島津家の大軍に囲まれても降伏せず、玉砕することでその生き様を示した。
後の高橋鎮種(紹運)と言えば、思い出す方もいるだろうか?
そして、鎮理(高橋鎮種(紹運))の息子は、
父と養父の思いを背負い、“西国無双”の名の下に、戦国時代を、江戸時代を生き抜いていく。
もう、戦国時代ファンならおわかりだろう。
立花宗茂
この物語上ではまだ見ぬ名将は、この血と涙の果てに生まれたことを知り、私はこの物語を受け入れられた。
もし、この本に興味を持っていただけたなら、手にとって欲しい。
そして、最後まで読み切って欲しい。
震えが、熱い想いが待っているはずだ。
予測できてしまう展開が、作られたドラマより酷い悲劇が待ち構えている。
が、それすら報われる(と思わせる)ラストが待っている。
そして、きっと、続編があるはずだ。
この報われない時代が、続編でムダじゃ無かった、と思わせて欲しい。