決戦シリーズで唯一?単行本読み損ねた1冊。
で、文庫版を機に読んで見たけど、総合点じゃ完成度はイマイチ。
どうした、みなさん、って思ってしまった・・・
信玄や謙信の深掘りをほとんどの方がしていないことと、比較的みなさん通説寄りな展開だったため、歴史をただなぞっているようで、どうも盛り上がらない。
特に上杉側作品はとにかく、みんな謙信にはよそよそしい上杉軍団目線ばかり。
『嫌われていた?謙信が川中島の合戦を通じて上杉軍の信頼や忠節を得る』
みんなこのプロットなんだよなあ。
また、当の謙信も沖方さん以外は捉え切れていない感じだった。
やはりこの軍神を描くのは難しいんだろうか・・・
■五宝の矛
戦の国で既に読んでいたので、再読として読破。
やはり謙信といい、秀頼といい、秀秋といい、理屈じゃ表現しづらい男を書かせたら沖方さんは、本当に脳裏に残る文を書くなあ。
どこかポエムのようで、どこか雲のような謙信。
その若さと独特な感性、そして強靱な使命感。表現力はずば抜けているなあ。
もっとも
“弟を見守る兄”と“常人ではない弟”
沖方作品愛読者なら、光圀伝 (角川文庫)を思い出したはず(まあ、というかまんまだったけど)
■啄木鳥
今度は武田側。山本勘助が主人公。
勘助と川中島と言えば啄木鳥戦法だが、今作品では「なぜ啄木鳥戦法は見破られたか?」について斬新な説を採用している。
しかも、この話になると、どうしても浅田次郎氏を初めとした従来の作品説を引っ張ってしまいがちだが、本作は引っ張られず独自方向を貫いた。
派手さはないし、結末もある程度予想できてしまうのだが、きっちり仕上がったいぶし
銀の一作だ。
■捨て身の思慕
老侍に収録されていた一作。
改めて読んで見て、宇佐見定満の“史実”に囚われすぎてるなあ、という印象は変わらず。
確かに定満は史実上の実績がなく(創作の人物とも言われている所以。一時は謙信の隠れた名軍師と言われていたが証拠がない)扱いづらい人物ではある。
だが、「特に大きな働きも無く形だけの軍師」設定はさすがにやりすぎだ。
おかげで、謙信に対する一途な想いの成就物語という、妙な構成になってしまっている。
せっかくの短編、もっと大いに遊んで欲しかった。
■凡夫の瞳
天下の副将と称され、後々まで補佐役の鏡と言われた、武田信繁を描いた作品。
良く言えば、死に向かうラストを前庭にした構成の手堅さ
悪く言えば、特筆すべきところがない。
物語って、難しい・・・
■影武者対影武者
信玄は影武者
信玄に斬りかかった謙信も影武者
そんな化かし合いを真田昌幸目線から描く一作。
ちなみに信玄に斬りかかった男は謙信では無くその家臣という表記は、武田側だけでは無く上杉側にも記載があるらしい。
案外、これに関しては史実としての説得力があり侮れない。
■甘粕の退き口
この短編集で最も好きな一作。
川中島の戦い
実は数多くの武将が登場する武田に対し、上杉側の武将はホントに数人。
そして上杉側で謙信以外で必ずといっていいほど登場する武将・甘粕景持。
武田別働隊をわずかな兵で足止めした武功の持ち主、彼はなぜ足止めに指名されたのか。その理由が少しおかしく、少し熱く描かれている。
謙信を認めながらも、その傍若無人ぶりに辟易する甘粕の顔が浮かぶ(笑)
上杉軍団のぎこちないやりとりや、謙信の絡みづらい主君ぶり、これ読んでると上杉軍には配属されたくない(爆)
■うつけの影
最後は信玄。
謙信との戦いだけではなく、天下を見据えた上での軍事行動、足止めされた天下への道。そして強敵・謙信と信長への想いが赤裸々に綴られている。
どちらかというと信玄半世紀が中心の内容。
これも派手さも特筆すべきところがないのが、寂しいと言えば寂しいか・・・

- 作者: 冲方丁,宮本昌孝,木下昌輝,矢野隆,乾緑郎,吉川永青,佐藤巖太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/05/18
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