表紙を見たとき、その幻想的な色彩に目を奪われた。
でかでかと書かれたタイトル『平城京』と、その色合いは、自分の中で奇妙な感動を生んでいた。
イメージしていた平城京は、もっとモノクロだったから。
(ホント、勝手な思い込みと知らなきゃいけないんだけど)
もしかしたら
“平城京”という存在は、当時の朝廷(有識者)にとって、モノクロを色彩あふれる世界に変えるための象徴だったのではなかろうか。
なんといっても、この平城京建設自体が、短期間・大移動・大変革を伴った、国家プロジェクトだったのだから。
それだけの目的や熱意があったはずなのだ。
古代の歴史小説がどうもなじめない自分だけど(苦笑)目を背けちゃいけないと思い、この本を手に取った。
そういう意味では、この本は完全に“ジャケ買い”だった。
最近の研究では、天智VS天武の血族争いが根強かったといわれる奈良時代。
直近では国外への出兵で大敗北。
国内外の方針変換をかけて壬申の乱。
新たに建設した都・藤原京。
でも、それでも、国内は収まらなかった。
くすぶる国内のしこり、精算されない失敗、そして収められない人の思い。
朝廷は、藤原京建設からわずか10年で、新たな都の建設を宣言する。
この物語は、ここから始まる。
全てをまとめあげるために、朝廷が挑む都作りには、教科書の数行では入らないストーリーがあったのだろう。
本作は、そんな根底をきっちり取り入れながら、平城京完成を舞台に繰り広げられる苦難や敵対勢力との攻防を描いている。
史実・創作・そしてミステリーの3要素がうまーくあわさった、読み応えのある1冊だった。
物語の中には、見慣れない人物名やかなり難しく複数の要素が内包されているのだけど、著者・安部さんはそれを上手くさばいていく。
特に、重く暗くなりがちな展開を、アクションやミステリーを織り交ぜながら読者を巻き込んでいくので、かなり長いお話しも負荷にならなかった。
中盤から終盤にかけては、天皇襲撃や闇の集団の暗躍など、古代日本が抱える負の要素がぐんぐん迫ってくる。
特に天皇襲撃の真相は、あっ、と声をあげてしまうほど意外なものだった。
これは本書を読んで是非確かめて欲しい。
この作品が読みやすかった、と思えたなら、それは、この困難な都建設を明るく強く引っ張ってくれた主人公の船人に寄るところが大きい。
よくよく読むとまるで少年漫画の主人公のような能力を持ち(笑)
共感できる過去を持ち
周りを巻き込みながら大きく力強く混迷の世を生き抜いていく。
最後の最後まで、本当に爽やかだ。
これマンガ化したら相当映えるだろうなあ。