この切なさとやるせなさを、どう昇華したらいいんだろう。
自然と文明は交わりあえない、と言うことなのか。
変わっていくことが幸せとは言えないということなのか。
山の民たる“信友”が愛する兄のために、友たる虎胤はその牙となるためにその生涯を捧げた物語。
自然と人知のハイブリットという希有な存在として、兄のために力を注ぐ“信友”の前にたちはだかるのが、北条氏綱というのが渋い。
しかも、人界の象徴として。
願っても届かない壁として。
(しかも憎めないんだよなあ。腹立つほど)
武田信玄の父の時代という馴染みのない時代
山の民、人界の穢れに対する不気味さ
随所で盛り込まれる、覆ることのない運命への予言
物語序盤で言い渡されていた結末を、自らの命であがなう主人公。
なんとも理不尽な裁定が胸を突く。
演劇の神髄は観客の心をさび付かせることだ、という話があったが、この作品はさびをつけて去っていった。
絶対読んで欲しい作品。
だけど、軽い気持ちで読んで欲しくない。
なんだか不思議な気分なんだよなあ。