歴史の教科書に載らなくても、心に響く生き様を示した人はたくさんいる。
かつて『武士の家計簿』という本で、(その当時は軽視されていた)“そろばん術”で我が家を立て直し、その能力を買われ明治の時代に躍進した武士を知ったときの“嬉しさ”を今でも憶えている。
変化の時代、多くの人が取り残され、輝けないまま歴史の闇に消えていく。
その一方で、足掻き続け、泥臭くても次につなげられた人もいる。
決して目立たなくても、かっこわるくても、その足跡が僕たちを突き動かす。
きっと本書『幕末下級武士のリストラ戦記』主人公・山本政恒は、今だからこそ知っておくべき人物だ。
将軍の陰武者をやり
幕末を生き抜き
徳川家静岡移転に伴い収入激減状態へ。
職を転々とした。
リストラもされた。
“武士の商売”をやって、家族を養ったこともあった。
そして最期は自分史に命を注ぎ込む。
とにかく何でもやった。
家族のため、生き残るため、徳川武士の意地を示すため。
決して大きく秀でた能力があったわけではないのだろう。
それでも、山本政恒の生き様は、困ったとき人間が選ぶために大事にすべきものを教えてくれる。
必死で新時代を生き抜いた姿は、幕末の英雄と遜色ない光を放っていたように思う。
江戸の食事情や着物、自分の趣味など一生を事細かに記載した自分史の内容も、リアリティにあふれ、それだけでも読み応えがある。
随所で書かれている直筆の絵も、遊び心があって、読者を和ませてくれるものばかり。
地味だけど示唆に富んだ新書。
読んで良かった。