『決算!忠臣蔵』という映画を覚えているだろうか。
忠臣蔵をお金の面から描いた異色の作品。
赤穂城明け渡しにかかるお金、家臣に渡すお金、生活費、武具維持費、さらには討ち入りの費用などなど、武士の使命感と現実の家計問題との間で揺れ動く赤穂浪士たちの姿が、コミカルに描かれていた。
主演は堤真一、お笑い芸人の岡村隆史が役者として出演して注目を集めたことでも知られている。
この映画、実は原作が新書、つまり物語ではなく研究本から生まれた作品。
しかも、著者は東京大学大学院情報学環教授、史料編纂所教授の山本博文さん。
著書から感じられる、細かで丁寧な研究っぷりと史料の誠実な向き合いがステキで、お目にかかったことはないけれど、とっても信頼が置ける方。
その山本さんが亡くなった、と聞いたときは本当にショックだった。
改めて、ご冥福をお祈りします。
本書『関ヶ原の決算書』は山本さんの遺作。
先ほどの映画原作『忠臣蔵の決算書』に続く、決算書シリーズ続編にあたる1冊だ。
舞台は天下分け目の関ヶ原。
勝敗は日本人なら誰でも知っていることだが、実際のところ誰が得して誰が損したのか、その額を換算するという、斬新な試みがこの本の魅力。
といっても内容は関ヶ原合戦ダイジェスト(主に島津家)になっており、意外とお金要素は少なめに見える。
が、ラストに両軍それぞれの清算によって、これまでと違った結末が見えてくる。
そして、それに伴う豊臣家の清算結果は驚愕の一言!
よく、六〇数万石にまで石高が下がった、としか提示されていない関ヶ原後の豊臣家。お金に直すと、ここまでの実損が発生していたとは・・・
秀頼(もしくは輝元や淀殿)のジャッジミス、(文字通り)高くついたな・・・
検地によって大名の懐はどのように変化したのか、
豊臣家の革命的補給システム構築の効能、
蔵入地という非常に重要な存在の解説、
などなど、中世の土地事情が理解できるツボおしまくりの内容。
司馬遼太郎がいち早く目を付けた「豊臣家の日本人離れした補給意識」が史料上でもきちんと証明されているのも見所だ。
豊臣政権時の外様大名(島津や津軽など)が三成に恨みを持っている、という従来の説がお門違いなのが、本書読めば一目瞭然。
俗説に囚われず、実態から正しい理解をするために。
黒帯以上の戦国ファンよ、これを読まねばモグリだぞ(笑)