幕末長州の火付け役・吉田松陰。
彼は高杉晋作・久坂玄瑞ら多くの弟子を育てた教育者として名前が挙がることが多いが、思想家であり、行動の人であり、読書家でもあった。
そして何より彼が残した膨大な著書こそが、僕たちが吉田松陰という人物を知る大きな手がかり。
中でも有名なのが処刑前2日間で書き上げたという魂の書『留魂録』
極限の状況の中で彼が残した、まさしく魂の叫びが、長州藩の行き先を決めた、といっても過言ではない。
本書はこの書籍のダイジェストを通じて、松蔭の生涯と弟子・関連人物の生涯、松蔭死後の松下村塾や吉田家、さらには松陰神社設立秘話までを網羅したもの。
幕末から明治にかけて、数多くの著書がある安藤優一郞さんが、これだけの情報量を文庫300ページにまとめあげている。
さすがの安藤本、今回もクオリティは非常に高く、この本で松蔭関連の大筋の流れが理解できるように構成されている。
幕末はもちろん、長州藩のことや高杉・久坂らのことが知りたい方でも読んで損無し。 非常にオトクな1冊だ。
松蔭といえば、行動の過激さや言動の極端さなどから、かなり起伏の激しい人物としても知られている。一時は弟子達からもそっぽを向かれたこともあり、完全無欠のリーダーというところからは遠い存在だ。
しかし、今彼から学ぶべきところは、その熱気にあり、残された言葉にある。
狭い四畳半(後に八畳以上)の部屋から始まった講義や授業、彼の言動から発せられる熱が、多くの若者たちのリミッターを外していく。
松蔭亡き後、藩を、しがらみを、そして思想にしら体当たりでぶつかっていった若き弟子達。 その生き様に隠された松蔭の言葉を、本書から読み解いて欲しい。
ちなみに、松蔭が残した膨大な著作は、弟子達が書写(書き写し)を行い、他藩へ伝えられた。まさに、言葉が松蔭を世に広めたのだ。
※『留魂録』も松蔭は2冊書いたが、1冊は行方不明。牢家主に残されたもう1冊が現存するという数奇な運命だった。
そして、弟子達は書籍を題材にして、定期的に集まって読書会(この時代は会読形式)を開催していたという。
松蔭亡き後、多くの弟子が散っていったが、一時でも松蔭の著書が、つながりの場所すら生みだしていた。
言葉の力の強さを改めて感じるエピソードだ。