もし、夢が現世で叶わないとわかったら、貴方はどうしますか?
貴方の願いが誰からも望まれていないとしたら、何をもって生きようと思いますか?
これは、武力でも権力でもなく、“言の葉”でこの息苦しい世界へ抗おうとする若き将軍の物語。
遠く都から鎌倉へやってきた姫が、夫との愛とすれ違いを通じて、届かぬ願いを言の葉に託す物語。
そして、その願いが叶わぬと知ったとき、今ではなくはるか先へ、理不尽を変えられる世界であることを願って、言の葉を綴っていく物語。
言葉を発し、言葉で誰かに何かを伝えようとする全ての方々に届けたい1冊だ。
最初これを読んだのは、小説すばる誌面だった。
小説すばる新人賞受賞作として、掲載されていた抄録版を読んだときから、新人とは思えない完成度の高さに発売が楽しみだった。
受賞時点から加筆修正を加えて、待望の単行本化。
書店に走り、ワクワクしながら読み進めた。
あのときの予感は間違いなかった。
令和に読むべき作品として、たくさんの人にオススメできる内容だ。
物語は源頼朝亡き後の策謀うずまく鎌倉。
みんなが望む将軍になれない自覚をもつ三代将軍・源実朝が都から来た妻・信子との出会いを通じて、「言の葉」の無限の可能性と美しさを知り、「武」以外の方法で将軍としての責務を果たそうとする青春ストーリー。
北条政子や北条時政ら、鎌倉時代初期を彩る主要人物が軒並み登場。
数多の犠牲と困難を経て、鎌倉幕府を成立させた反面、積み重ねた罪や苦悩を誰もが抱え、そこから生じるすれ違いや後悔が負の連鎖となって、若き夫婦の挑戦を壊し、夢を打ち砕いていく。
実朝がその才能を開花させる明るい展開と、ままならない現実を突きつける鬱展開が容赦なく入れ替わり、読者をやきもきさせる構成の妙。そして心理描写を丁寧に積み重ねることで、憎々しさも受け入れさせられる豪腕ぶり。
とても新人作家とは思えない。
登場人物はとても多いのだけど、全ての人物の伏線がキレイに回収され、しかも史実tしっかりリンク。結末がわかっていながら最後の最後まで目が離せない。
オススメのセリフは
「私は言の葉を信じた将軍だ」
実朝の思いは北条一族の心を動かし、承久の乱を経て、武士の法作りへ繋がっていく。
理不尽を防ごうとする願いへのアプローチが、明治維新まで変わることなき法典として残り続けた。
そう、言の葉が、未来を作り上げたのだ。
例え今、届かなくても。
少し先の未来へ、同じように苦しんだりその思いが必要としているところへ届けよう。
その目線の変化が、きっと世界を変える。
若き夫婦の、純粋にお互いを思い、他者を想い、世界を想う物語。
2020年、1人でも多くの方に読んで欲しい1冊だ。