コロナショックで、僕たちは肌感覚の情報を取りづらくなった。
例えオンラインでつながっていたとしても、あの熱気や、予期せぬ出会いや、不意に訪れるひっかかり(心へのサビ)は今の技術では提供されてこない。
どんな本を読んでもやってこないのだ。
体験でしか得られない熱量が。
明日をがんばろうと思わせてくれる一言が。
でも、もし、貴方がそんな場に飢えているなら。
背中を押してくれる存在を渇望しているのなら。
この本は、それらを満たしてくれる1冊だ。
あのとき、未来を厳しく楽しく創り上げていこう、というエネルギーに会場は満ちあふれていたに違いない。
2012年6月、東大で行われていた“伝説の東大講義”を収録した本書は、講師の瀧本さんが10代~20代に送った、未来への「檄」だ。
これまでの形式や、成功が望めるやりかた(テンプレ)再利用といった安易な道をぶった切り、先が見えない未知数の選択を大いに歓迎する。
“18歳ぐらいの人だったら、気合いを入れれば伊藤博文よりも若い年で総理大臣になれる可能性は十分にある、と思っているんですよ”
今は昔よりもいろんなことに挑めるようになったし、うまくやれることも増えた。
今の失敗は人生の失敗にはならない。
だから恐れるな。
ちょっとおちゃめで、口調は厳しく、それでいて優しさがあふれ出る瀧本さんの声が聞こえてくるようだ。
国や政府からのトップダウンを待つのではなく、自分たちが心から望んだ小さな場所で旗を立てるこそ大事なんだ、という話しは、まさに今の状況を象徴しており、先の見えない中、新しい挑戦をしている方やこれから挑もうとしている方に向けた、協力なエールになるに違いない。
オンラインという選択肢を選ばざるを得ない昨今だからこそ、講義から個の力、そしてリベラルアーツの重要性をひしひしと感じる。
その瀧本さんは昨年急逝。ホントに惜しい方を亡くした。
瀧本さんは本書(講演)の最後をこう締めくくっている。
「ボン・ヴォヤージュ!」
「自分の判断でリスクを取っている」間柄だからこそ敬意が生まれる。
そこに余計な言葉は入らない。
「よき航海を」
それだけでいい。
瀧本さんがご存命なら、この状況をどうコメントするだろうか、とふと考えて、僕はその思念を打ち消した。
「ボン・ヴォヤージュ!」と言えるように、言ってもらえるように。
この講演を生で聴いたわけではないけれど、聴いた(と解釈して)僕たちは一歩でも踏み出さなければ・・・
タイトルの通り、今年の6月30日が、瀧本さんと受講生との“約束の日”となった。
瀧本さんがお亡くなりになり、コロナの影響で会場も使えない。
端から見ると、約束は実現できない。
それでも、「またここで会おう」という言葉は色あせずに残っている。
読んだあと、この日は必ず来ると思えるし、作りたい、と心から思う。
例え一カ所に集まれなくても、今自分がたっている場所や、この本を読んだ読者同士、同じ思いを持った者同士で集まればいいと思う。
それぞれの場所でたつことこそ、瀧本さんの趣旨の一つだったのだから。
そして、答え合わせをしよう。
便乗ながら、僕もこの日、答え合わせをしようと思う。