明智光秀は何者なのか。
おそらく、これがわからないので、本能寺の変は解明されていない。
(解明された、という結論を出すことができない)
保守的な戦国武将というのが定説だったが、そうとも言えないイメージが宣教師の証言(文献)から出てくるなど、謎は深まるばかり。
ただ、これははっきり言えるだろう。
明智光秀は、50代まではほぼ定職につけていない「何者でもない」男だった。
要するに、社会不適合者だったのだ。
バクチ好き、社会適応性低く、満たされないものを抱え続ける存在。
『桶狭間の〜』や『姉川の〜』などでおなじみの鈴木さん新作でも、この光秀像は変わらない。
今回はほぼ光秀が主役となっており、実力はあるものの、性格や発言に難があり這い上がることができない者の悲哀がそこかしこに(笑)
しかも、信長と足利義昭との板挟みになるだけでなく、慣れない仕事や組みたくもない相手とのやりとりなど、どこか哀愁漂うコメディ要素に笑いが止まらない。
相変わらずどこにでも出てくる信長や、信長の負の要素を全て拾い集める秀吉のおかしさなど、今作も歴史小説にあるまじきぶっ飛び設定。
そしてそのなか、ぴりりとした歴史の皮肉が出てくるのだから油断できない一冊だ。
ちなみに足利義昭のキャラがかつて無いほどの怖さと危うさを秘めている。
信長に利用され捨てられた、というイメージを覆す、足利将軍の誇りと自信。
最後の最後まで負けなかった義昭の高笑い、そして光秀の嘆きをお読み逃しなく。